「自分や家族が入院したときに、どのくらい費用がかかるかな?」
「医療費を安く抑えるにはどうしたらいい?」
「入院に備える方法はある?」
このようなお悩みにお答えします。
突然の入院によって、どのくらい出費がかかるのか気になりますよね。医療保険制度が使えるので、自己負担は軽減されますが、長期の入院では費用が多くかかるのも事実。
もし入院が決まったら、相場を調べたうえで公的制度を利用すると費用負担を軽くできます。
私は、20代になってから4回入院を経験しました。
当時知りたかった入院費の相場や公的制度の情報について、医療職に従事している経験をもとに紹介します。
本記事では、以下の内容を解説します。
- 入院にかかる費用
- 医療費のほかにかかる費用
- 入院時に使える公的制度
- 収入減少のリスク
- 入院に備えてできること
入院費や収入減少のリスクについて気になる方は、適切な対応ができるよう、本記事を参考にしてみてください。
入院費はいくら?データをもとに費用を算出
入院費については、大きく分けると「医療費」と「医療費以外」による負担があり、それぞれの特徴は以下のとおりです。
・医療費:治療にかかる費用のこと。公的医療保険制度の適用により1〜3割の自己負担です。
・医療費以外:食事代や衣類代など、入院中にかかるさまざまな費用のこと。
なお、2022年における入院費の平均額は19.8万円です。入院費について実際のデータを調べたうえで、以下のとおりまとめました。
- 入院1日あたりの自己負担費用
- 入院日数からみた自己負担費用
- 病名別にみた入院費
順番にデータを見ていくので、どの程度費用がかかるか目安にしてみてください。
1. 入院1日あたりの自己負担費用
入院1日あたりの自己負担費用については、全体の平均をみると20,700円でした。詳しくは以下表のとおりなので、参考にしてみてください。
自己負担割合 | 割合 |
5,000円未満 | 13.8% |
5,000~7,000円未満 | 8.8% |
7,000~10,000円未満 | 11.5% |
10,000~15,000円未満 | 23.3% |
15,000~20,000円未満 | 7.9% |
20,000~30,000円未満 | 16.0% |
30,000~40,000円未満 | 5.5% |
40,000円以上 | 13.2% |
4人に1人の割合で10,000~15,000円の費用がかかっていました。ただし、1日あたりの費用は治療内容によって、大きく差が出ます。
手術や検査がある入院は、相場よりも高くなる可能性があることを考慮しておきましょう。
2. 入院日数からみた自己負担費用
入院日数からみた自己負担費用については、以下表のとおりです。
入院期間 | 自己負担費用の平均 |
全体 | 19.8万円 |
8.7万円 | 5日未満 |
15.2万円 | 5〜7日 |
16.4万円 | 8〜14日 |
28.4万円 | 15〜30日 |
30.9万円 | 31〜60日 |
75.9万円 | 61日以上 |
入院費の全体平均は「19.8万円」でした。なお、入院日数が延びるほどベッド代や食事代などの費用が増えるため、金額は大きくなります。
2ヶ月以上の長期入院になると入院費の平均は75.9万円なので、貯蓄を大きく減らす可能性が高いです。
3. 病名別にみた入院費
病名別にみた入院費については、以下の表にまとめました。
病名 | 入院費 | ※推定 | 自己負担額(3割)
急性心筋梗塞 | 1,082,801円 | 324,840円 |
脳梗塞 | 2,517,406円 | 755,222円 |
胃がん (胃の悪性新生物) | 643,552円 | 193,065円 |
気管支がん・肺がん | 915,619円 | 274,686円 |
乳がん | 845,429円 | 253,629円 |
肺炎 | 841,824円 | 252,547円 |
糖尿病 | 1,018,714円 | 305,614円 |
胃潰瘍 | 645,498円 | 193,649円 |
喘息 | 334,774円 | 100,432円 |
大腿骨頸部骨折 | 2,322,476円 | 696,742円 |
胆石症 | 681,895円 | 204,568円 |
脳梗塞や心筋梗塞など、入院日数が長期化しやすい病気の場合、費用が高額になる傾向です。
反対に、喘息や胃潰瘍などは短期の入院で済む傾向にあるので、比較的費用は少なくて済みます。
医療費のほかに入院でかかる費用
入院費としては、治療・手術・薬代など公的医療保険が適用される項目のほかに、以下の費用が発生します。
- 差額ベッド代
- 食事代
- 衣類や日用品
- 趣味や娯楽
- 先進医療
実際にどのような費用がかかるか参考にしてみてください。
1. 差額ベッド代
大部屋に入れると費用はかかりませんが、1〜4人部屋に入院したときは、差額のベッド代が発生します。
1日あたりに発生する差額ベッド代の平均は、以下表のとおりです。
部屋の構成 | 1日あたりの差額ベッド代 |
1人室 | 8,018円 |
2人室 | 3,044円 |
3人室 | 2,812円 |
4人室 | 2,562円 |
平均 | 6,354円 |
差額ベッド代が自己負担になるケースでは、入院が長期になるとその分費用が増えます。入院費を抑えたいなら、個室を避けるのがおすすめです。
2. 食事代
入院中は病院が食事を用意してくれますが、こちらも自己負担の対象です。食事の負担は全国一律で「1食460円」に設定されていて、1日3食出されると「1日1,380円」かかる計算です。
住民税非課税世帯や難病疾患をかかえる方は、食事代は減額されますが、一般の人は一定額を支払います。
3. 衣類や日用品
衣類や日用品は病院が用意しているわけではないので、自分で準備する必要があります。病院の市販品やレンタル品を使用してもかまいませんが、全額自己負担になるので注意が必要です。
予定入院の場合は自宅から日用品を持参したり、家族に持ってきてもらったりすると、費用を節約できます。
4. 趣味や娯楽
入院中の趣味や娯楽にかかる費用は、全額自己負担です。たとえば、暇な時間をつぶすため、雑誌や新聞を購入すれば出費が増えます。
また、TVを視聴するために、プリペイドカードの購入が必要な病院は多くあります。1つ1つは小さな出費ですが、贅沢すると大きな金額になるので、買い過ぎには注意しましょう。
5. 先進医療
先進医療にかかる費用は、全額自己負担です。先進医療とは、厚生労働省に「先進医療」として認められた、新しい治療や手術のことです。
2022年8月1日において82種類が先進医療の対象になり、具体的には以下の治療があげられます。
- 陽子線治療
- 重粒子線治療
- 細胞診検体を用いた遺伝子検査
- 多項目迅速ウイルスPCR法によるウイルス感染症の早期診断
など
先進医療を受けるなら、全額自己負担になる点には留意しておきましょう。
入院時に使える4つの公的制度
入院期間が延びると医療費が高額になるケースが多くありますが、同時に公的制度の利用が可能です。
こちらでは、入院時に使える4つの公的制度を紹介します。
- 高額療養費制度
- 限度額適用認定証
- 傷病手当金
- 所得税の医療費控除
1. 高額療養費制度
高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費が自己負担の限度額を超えた場合、超えた部分の金額が支給される制度のことです。
自己負担限度額は、自分の収入をもとに以下表のとおり決められています。
70歳未満の区分
画像引用元:高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)|全国健康保険協会 協会けんぽ
70歳未満の方の窓口負担をもとに、高額療養費制度を利用したときに支給される金額をシミュレーションします。
たとえば、自己負担限度額区分ウ(標準報酬月額28万〜50万円歳)に該当する人が、1ヶ月の入院費として18万円(3割負担)を支払うと仮定します。
限度額は「80,100円+(総医療費-267,000円)×1%」なので、実際の負担は83,430円です。したがって、限度額と窓口負担の差額である96,570円を受け取れます。
高額療養費を申請するには、加入する公的医療保険協会に支給申請を出しますが、一度窓口で支払いが必要になる点には注意してください。
窓口で支払ったあとに高額療養費支給申請書を提出すると、3〜4ヶ月後に自己負担限度額との差額を受け取れます。
2. 限度額適用認定証
高額療養費は、一度窓口での支払いが必要となるため、その点が少し不便なところです。そこで「限度額適用認定証」を申請していれば、窓口負担を少なくできます。
限度額適用認定証をもっていると、高額療養費における自己負担限度額までの支払いで済みます。
入院中でも申請ができるので、あらかじめ医療費が高額になるとわかっているなら、限度額適用認定書を利用したほうがお得です。
また入院中で申請が難しいケースでは、代理人による申請が可能です。医療費が高額になりそうなら、あらかじめ限度額適用認定証を申請しましょう。
3. 傷病手当金
入院が長期になるケースでは、有給休暇の日数が足りなくなるかもしれませんが、休職にすると休んだ期間の給料は出ません。
そこで「傷病手当金」を利用すると一時金を受け取れるので、生活費をまかなえるでしょう。
傷病手当金の受給額は「12ヶ月の標準月額報酬額を平均した額の30分の1」×「3分2」×「支給日数(4日目から支給開始)」で計算されます。
たとえば、12ヶ月の標準月額報酬が21万円の条件で30日間仕事を休んだ場合、1日あたりの支給額は約4,667円になり、総額は約126,000円です。
傷病手当金を受け取るには、以下の条件をクリアする必要があります。
- 業務外の事由による病気やケガによる休業である
- 仕事ができない状態である
- 仕事を休んだ日が4日間以上ある
- 療養期間中に支給額以上の給与払いがない
給期間は最大で1年6ヶ月を限度としているため、長期入院にも十分に対応できます。ただし、支給額は基本給よりも少ないので、貯蓄を切り崩す可能性が高い点は覚えておきましょう。
4. 所得税の医療費控除
医療費控除とは、1年間(1月1日〜12月31日)の医療費が10万円を超える場合、確定申告すると超過分に対して所得控除が受けられる制度のことです。
所得税の額を算出するときに、所得から一定の金額を差し引くことです。会社員の場合、年末調整によって1年間の所得税と住民税が決まりますが、医療費控除を使うと払い過ぎた税金の還付が受け取れます。
医療費については入院費だけでなく、1年間にかかった以下の費用が対象です。
- 病院での診療費・治療費・入院費
- 入院の部屋代や食事代
- 医師の処方箋をもとに購入した医薬品
- 治療に必要な松葉杖など、医療器具の購入費用
- 通院に必要な交通費
- 歯の治療費(保険適用外の費用を含む)
など
1年分の領収書は保存しておいて、医療費控除を受けるため確定申告を検討してみてください。
入院したときに注意したい収入低下のリスクと対処法
入院したときに注意したいのが、収入低下のリスクです。会社員や公務員の場合、有給休暇が足りないときは、休職扱いになります。
傷病手当金を申請すれば月額報酬に応じた金額が支給されますが、残業代はなく基本給より低い金額しかもらえません。
一方で、フリーランスや自営業の方は入院した日数だけ働けなくなるので、そのぶん収入が下がります。
入院によって貯蓄や資産を減らさないために、緊急の出費に備えて貯金を蓄えたり保険に加入したりしておくのが大切です。
2つの対処法について順番に解説するので、本章を参考にしてみてください。
1. 必要な貯蓄を準備する
最初に意識しておきたいのが、必要な貯蓄を準備することです。病気によって入院費は大きく異なりますが、入院費全体の平均は19.8万円。
ほかにも治療が長引いた影響で収入が減少する可能性を考えて、半年分の生活費を蓄えておくと、入院による突然の出費に対応できます。
必要な貯蓄を蓄えたうえで、急な入院に対応できるようにしましょう。
2. 保険に加入する
入院によって赤字になる金額を補うために、民間の医療保険へ加入するのも1つの手です。長期入院した場合は、貯蓄を大きく減らす可能性があるので、万が一に備える意味で医療保険に加入すると安心できます。
フリーランスや自営業の場合、治療期間は収入が途絶えてしまうので「収入保障保険」の加入は検討の余地があります。病気やケガで働けなくても、保険金を受け取れるので、生活費をまかなえるでしょう。
ただし、保険に加入すると保険料の支払いが発生するので、必要な補償を見極めて最適な保険を選びましょう。
入院費が払えないときは病院の事務に相談する
入院費が思ったよりも高額になり、支払いが困難になるケースでは、病院の事務に相談してみてください。
入院費を支払う意思のある方には、支払いを延長したり分割払いに対応したりするケースがあるからです。
銀行や消費者金融のフリーローンでお金を借りる手もありますが、金利が高く設定されているので、返済が難しくなるかもしれません。
入院費の支払いが困難であれば、1人で抱え込まずに病院の事務へ相談してみましょう。
入院費の平均を把握したうえで公的制度を利用しよう
2022年における入院費の平均は19.8万円ですが、入院期間や病気の種類によって入院費はさらに増大します。
入院費が高額になると予想できるときは、以下4つの公的制度の利用を検討してみてください。
- 高額療養費制度
- 限度額適用認定証
- 傷病手当金
- 所得税の医療費控除
また、入院期間が長引くと収入が低下して貯蓄や資産を大きく減らす可能性があります。普段から必要な貯蓄を貯めたり、保険に加入したりすると、突然の入院にも安心して対応できます。
本記事を参考に、自分に合う方法で準備していきましょう。